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第33回 史料整理の現場から(13)「壬申地券」の発見

更新日:2024年12月14日

令和5年度に南鎌ケ谷の旧家である徳田家から、1,000点あまりの資料を寄贈いただきました。その中に含まれていた、食器類の包み紙や、木箱・箪笥(たんす)内の敷き紙などに使用されていた古文書類について整理作業を進めたところ、江戸時代から昭和30年代にかけて、220点の史料が確認されました。このような再利用された反古紙(ほごし)(不用になった紙)の中に、思いがけない形で貴重な史料が残り、新たな史実の発見につながることはたびたびあります。
整理した史料には、和箪笥の引き出し内に残っていた複数の「たとう紙」(「畳紙」とも書き、着物などを包む紙)の中に、反古紙となった「壬申地券(じんしんちけん)」4枚を貼り合わせて作られたものが含まれていました(写真1)。このように壬申地券の実物をまとまって目にすることは非常に珍しいことです。

1872年に使用されていた、たとう紙 じんしんちけんの写真
写真1「たとう紙」に使用された「壬申地券」(明治5年(1872年)・一部欠損)

壬申地券は明治政府が明治5年(1872年)に発行を開始した地券の総称で、私有地の土地所有権と所有者による納税義務を明確にし、土地の売買を前提として定めた地価に一定の比率をかけた地租(ちそ)(注釈1)を徴収することを企図して発行されました。翌6年に地租改正法令が公布されると、地租は地価の3%となり(後に2.5%に引き下げ)、全国で地租改正事業が開始されます。この改正事業は明治8年から本格化し、市域においても、同9年から12年にかけて作業が進められました。この過程で新たに発行された地券を「改正地券(かいせいちけん)」といい、交付済みの壬申地券は改正地券と引き替えに回収されたためほとんど残っていません。地券制度は明治22年(1889年)に廃止され、土地台帳制度に移行しますが、所有者の手元に残った改正地券は各地域で多数確認されています。
たとう紙に使用されていた壬申地券は、明治5年11月、栃木県内(現在の足利市・栃木市内)の土地所有者に交付されたもので、木版(もくはん)印刷(注釈2)された書式に、所在地・地目(ちもく)・面積・所有者・地価(ちか)が記入されています。「地券之証」印と、栃木県令(けんれい)(現在の県知事職)及び県属(けんぞく)(事務を取り扱う役人)氏名下の押印部分に見える抹消線は、改正地券との引き替え時に付されたものと推測されます。

徳田家のたとう紙の写真
写真2 発見した「たとう紙」(地券の文字が裏写りしているのが確認できる)

一方、たとう紙の表には東京人形町(にんぎょうちょう)(とおり)新和泉町(しんいずみちょう)(かど)(現東京都中央区日本橋の中の旧町名)にあった(しち)古着(ふるぎ)店「越前屋(えちぜんや)弥助(やすけ)」の印字があります(写真2)。回収された壬申地券はおそらく栃木県庁で廃棄され、古紙を取り扱う業者によって東京市内に持ち込まれた後、たとう紙として再利用され、購入者の手に渡った可能性が考えられます。洋紙に印刷された改正地券と異なり、再利用に適した和紙の壬申地券が何らかのルートで流通していたとすれば、こうした類例が今後もどこかで見つかるかもしれません。

この「たとう紙・壬申地券」資料は令和7年1月26日(日曜日)まで開催中の令和6年度新資料展「新発見!鎌ケ谷のたからもの 文化財に親しもう 」で展示しています。この機会にぜひ実物もご覧ください。

(注釈1)土地に対する税金。課税の考え方の違いはありますが、今の固定資産税に相当するもので、昭和25年(1947年)に固定資産税の創設とともに廃止となりました。
(注釈2)木の板を彫ったものが印刷原稿となりました。そのため大量印刷ができなかったため、地租改正事業の進行にも影響を及ぼしました。なお、改正地券は日本初の凸版印刷技術を導入したもので、後の印刷技術の発展にもつながったようです。
(注釈3)上記2点の注釈については国税庁ホームページ内の記事を参考にしました。
(注釈4)本記事は、『鎌ケ谷市郷土資料館だより』67号(令和6年6月1日発行)に掲載した「史料整理の現場から」16の内容に加筆し、再編集したものです。

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